
ウインターカップ女子の頂点に立ったのは、大阪薫英女学院だった
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桜花学園
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61 | 24 | 1st | 20 | 66 |
大阪薫英
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| 20 | 2nd | 15 | ||||
| 10 | 3rd | 16 | ||||
| 7 | 4th | 15 |
試合は、第4クォーター残り4分を切った時点で同点。序盤は桜花学園が主導権を握り、後半は大阪薫英女学院がゾーンディフェンスで桜花学園の勢いを封じ、試合の主導権を握り返す。ディフェンスから流れを作ると、三輪がインサイドで得点し、ついに逆転。
さらにブレイクから追加点を奪い、一気に勢いを加速させた。桜花学園も最後まで攻め続け、残り30秒で2点差まで詰め寄る。
会場が息をのむ拮抗した展開となったが、大阪薫英女学院は冷静に得点を決め切り、桜花学園を振り切って勝利。激闘を制し、大阪薫英女学院はウインターカップ初優勝に輝いた。
悲願の初優勝。その裏側には、緻密に練られたゾーンディフェンスと、選手たちの「楽しむ力」を引き出した独自のアプローチがあった。
宿敵・桜花学園を封じたその舞台裏で、安藤香織コーチが貫いてきた11年の歩みと、日本一へ辿り着くまでの軌跡を紐解く。

「脳科学」に基づいた声掛けと、勝負の「ギャンブル」
4Qの接戦、ベンチからコーチの激が飛んだ。
「楽しんで!みんな笑顔、楽しんで!!」
その一言で、選手の笑顔が戻った。
J:タイムアウトの終盤に「楽しんで!」と声を掛けていました。あの言葉の意図を教えてください。
安藤コーチ
「うちの子たちは本当に真面目なので、結果を意識しすぎると萎縮してしまうんです。私は脳科学が好きでその知見を取り入れているのですが、結果を意識しすぎると脳の血流が減少して消極的になるという話を本で読みました。
序盤は思い切ってプレーできても、後半になると『確実にいきたい』という心理から、逃げの姿勢になったり、相手のエースを過剰に守ろうとして動きが硬くなったりします。だからこそ『結果(勝ち負け)ではなく過程に集中しよう』と言い続けてきました。
今大会、特に初戦は相手に向かってこられて受け身になってしまい、非常に苦しい展開でした。2回戦からは雰囲気を変えて、彼女たちからも声が出るようになりました。最後は『勝とう』ではなく『負けてもいいから楽しもう』という方向に持っていった形です」
緻密なファウルコントロールと執念のインサイド
今大会、徹底していたのは「ファウルトラブルで自滅しないこと」。エースの三輪が早い段階でファウルを重ねないよう慎重に守らせる一方、後半はファウルが込んでいた相手を徹底して突き続けました。
J:ゾーンを敷くことは、アウトサイドをある意味で「捨てる」という決断でもあったと思います。コーチとしての心境を教えてください。
安藤コーチ
「前半の様子を見て、マンツーマンのままではドライブの速さやフィジカルの差でズルズルいってしまうと感じていました。ですので、そこはもう『捨て身』の覚悟です。このままではいけないという状況で、一種のギャンブルではありませんが、何かを変えなければなりませんでした。
選手たちが『やばい、どうしよう』と不安になるのが一番良くないので、逆にこちらから仕掛けるんだという気持ちを持たせたかった。『とにかく狙え、狙え』と言い続けたことで、余計なことを考えずにプレーに集中できたのが大きかったと思います。後半を17点に抑えられたのは、しっかりとゴール下を最後まで守り抜いてくれたおかげです」
勝負を分けた「決死のゾーンディフェンス」
決勝の前半はマンツーマンで挑むも、相手のスピードとフィジカルに圧倒され9点のビハインドを背負います。安藤コーチはここで、「ゾーン」への切り替えを決断します。
安藤コーチの狙い
「マンツーマンだと自分のマークに必死になりすぎてカバーが遅れていました。ゾーンならボールに対して5人で守れる。マンツーマンのままズルズル行くより、捨て身の覚悟で仕掛ける『ギャンブル』を選びました。結果としてスイッチの迷いが消え、狙いどころが明確になりました」、「桜花学園さんの強さはオフェンスリバウンド。ゾーンにしたことでゴール下で体を張ってリバウンドを死守できました。そこが勝利の鍵だったと思います」と振り返った。
「大学生との練習」が不安を確信に変えた
今季、インターハイで京都精華学園に敗れた後、近畿ブロックリーグでは圧勝が続き、チームは「自分たちが本当に強いのか」という疑問に直面していました。その不安を打ち消したのは、併設する大阪人間科学大学とのハイレベルな練習環境でした。
「インカレで筑波大を追い詰めるほどの大学生相手に、勝ったり負けたりできる手応えがありました。だから、力がないとは思いませんでした。結果ではなく『今何をすべきか』という過程に集中し、前日の自分たちを110%、120%と超えていくことをテーマに掲げ、子供たちがそれを体現してくれました」
そして、
11年目の結実、そして伝統の継承
安藤香織コーチが大阪薫英女学院の指揮を執って11年。かつては公立高校の指導者として、全国屈指の存在だった大阪薫英女学院を追いかける立場にあった安藤香織コーチ。
前監督からバトンを受け継ぎ、ついに頂点に立った。
「かつては倒したい相手でしたが、長渡先生(前監督)にお声掛けいただき、『薫英から日本一を目指す』と目標を変えて歩んできました。今回の優勝は今の選手たちだけでなく、これまでの伝統や多くの人々の思いが繋いだ勝利です」
女性指導者としての誇り
「ウインターカップで女性コーチとして初の優勝」という点についても、安藤コーチは清々しく答えました。「意識はしていませんでしたが、これまで素晴らしい功績を残された監督たちの背中を追い、追い越したいという思いはありました。でも一番は、この子たちと一緒に日本一になりたかった。女性コーチとして、以前負けた相手にリベンジしたいという思いも、少しはありましたね(笑)」


#5 三輪美良々 (📸優勝の瞬間)
教えを信じ、コートで体現
三輪美良々が語る“日本一の準備”
J:安藤先生自身も「あの言葉(楽しめ)が当たり前のことだけど、あえての言葉だった」とおっしゃっていました。それを聞いてどう感じますか
三輪美良々
「やっぱり、楽しめなかったら絶対に後悔するし、自分のプレーもできない。それで負けてしまった経験もあったので、最後は「楽しむ一択」でやり切ろうと思いました。
最初から「楽しめ」とはずっと言われていました。「楽しんだもん勝ち」だと思っていますし、楽しめば後悔もないし、全力でやれる。それは先生にもずっと言われてきたことなので。途中からになってしまいましたが、もう一度「楽しむこと」を考え直してプレーできたかなと思います。
J:今大会、留学生相手にファウルをよく抑えて40分近く出場し続けました。そこについてはどう振り返りますか
三輪美良々
「今までは留学生と戦う時にファウルが込んでしまって、控えの今井(杏理選手)が出てくれるという展開が多く、「ファウルで退場してしまうのは情けない」と思うことが多かったです。どういうところでファウルになるのかを考え直し、プレッシャーをかけすぎていた部分を修正しました。守るところは守る、引くところは引く、というコントロールを意識した結果、あまりファウルをせずに済みました。」
J:そのコントロールは教わってできるものなのですか
三輪美良々
「安藤先生の教えのおかげだと思います。練習の中でも「こういうところでファウルになる可能性があるから」と具体的に言ってくださることが多く、それを意識してやれたからだと思います。」
そして最後にこの高校にきた理由や安藤先生の指導について
「将来的にオールラウンダーとしてやっていきたいという思いがあったからです。チームの中では高身長な方ですが、そこでポストプレーもしっかりこなしつつ、留学生が相手ならドライブで切り込んでいけるようになりたかった。将来を見据えての選択でした。」
「厳しい部分はありますが、日本一の高校生を目指す中で、バスケだけでなく日常生活の大切さも教わってきました。「楽しむところは楽しむ、やるところはやる」というメリハリや、人としてのあり方を教えてもらったので、やっぱり日本一の先生だと思っています。3年間薫英でやってきて本当に良かったです。」





理論と準備、そして選手たちの日本一を決めている想い。すべてを結集させ、大阪薫英女学院は悲願の初優勝を掴み取った。
「脳科学」と「執念のゾーン」は、単なる戦術ではない。11年という時間の中で育まれた信頼と伝統が、ついに日本一という形になって結実した。
その中心にあったのは、選手一人ひとりを信じ抜いたコーチと、その思いに応え続けた選手たちの確かな関係性だった。
最後に、安藤コーチの優勝が多くのファンを感動させたものは、かつては他校の指導者として、あるいはライバルとして薫英の壁に挑んでいた安藤コーチを、長渡前監督が自ら後継者として呼び寄せたこと。「打倒・薫英」という個人的な野心を、「薫英を日本一にする」という大きな使命へと昇華させた決断が、今回の頂点に直結したこと。「粘り強いディフェンス」という伝統的な薫英スタイルを継承しつつ、安藤コーチらしい「選手との密なコミュニケーション」や現代的な戦術を上乗せしたことが、最後に勝ち切る強さを生んだこと。
「これまでの伝統や多くの人々の思い」を持ち続けて、卒業生やこれまで惜しくもあと一歩で敗れてきた先輩たちの悔しさをすべて背負って戦っていた気持ちがまさに薫英の歴史が繋いだ1勝となった。次は、さらなる進化を安藤コーチ率いる「新生・薫英」のどんなプレーを見せてくれるのかバスケットファンは楽しみになる。

