
支える者と、受け取る者。
金澤杏と竹内みやの未来へ続く物語
金澤杏(桜花学園/3年キャプテン)
世代エースの金澤は、今年、前十字靭帯断裂により、約9か月コートを離れるも、チームの中心としてベンチから桜花学園を支え続けた。プレーで示せない時間が続く中でも、声掛けや立ち振る舞い、試合中の表情で後輩たちを導き続けた。
ウインターカップでは限られた出場時間ながらコートに立ち、キャプテンとしての覚悟と存在感を体現。コートの外からバスケットを見続けた経験を糧に、次のステージでも成長を誓う。
竹内みや(桜花学園/2年ポイントガード)
2年生ながらチームの司令塔として試合をコントロールし、攻守にわたって存在感を放ったガード。金澤杏の背中を間近で見ながら、判断力や勝負どころでの強さを吸収してきた。
ウインターカップでは接戦の中で果敢に挑み続け、敗戦の悔しさと同時に自身の課題と成長の余地を明確にした。「来年は自分たちが引っ張る」という覚悟を胸に、次代の桜花学園を担う存在として進化を続けていく。

金澤杏
2人のウインターカップ
前十字靭帯断裂で約9か月、コートから離れながらも、金澤杏は決してチームから離れることはなかった。怪我という現実を受け止めながら、彼女が選んだ役割は「支え続けるキャプテン」だった。
その背中を、最も近くで見続けていたのが2年生ガード・竹内みや。練習中の声かけ、試合中の表情、そしてシュートを打つべき瞬間の判断。金澤はプレーで示せない分、言葉と姿勢で、バスケットの本質を後輩に伝え続けてきた。
ウインターカップ2回戦で、金澤がコートに立った。出場時間は、わずか1分41秒。だがその時間は、9か月分の想いが凝縮された、特別な時間だった。その想いを受け止め、コートで戦い続けた竹内みや。2人は、同じ方向を向き、同じ勝利を信じて戦っていた。


決勝で惜敗、準優勝。
金澤杏が語ってくれた。
怪我については、
「本当に、実際には完治はできてなくて……。だけど、『いつ呼ばれても、試合に出る準備はずっとしといて』ってコーチから言われてたし、自分でも『出たい』っていう気持ちが強かったので、しっかり準備はできているっていう風には毎回試合の時に伝えてたんです。
でも、実は、怪我した時は、本当にもうウインターカップも出られないと思ったので、本当にもうバスケを辞めたいっていう気持ちが強かったんです。でも、ここまで頑張るエネルギー源になったのは、本当に家族のみんなとチームのみんなの支えがありました。あとは、このウインターカップまでしっかりキャプテンの仕事もし続けて、自分の仕事を全うできたっていうのは、本当に勝敗の問題ではなく、しっかり後悔なしでできたんじゃないかなっていう風には思っています」と心の内側を話してくれた。
そして、プレーのことも振り返ってもらった。
J:今大会で、1試合目の”あの1分41秒のプレータイム”。コートに立ったことを今、振り返ってみてどうでしたか
金澤杏
「いつ試合に出るか分かってなかったので、急に出るって言われた時は嬉しかった気持ちが一番大きかったのと、本当に約9ヶ月コートから離れてリハビリを頑張ってきたんですけど、『リハビリを頑張ってよかったな』と、この1年で一番思えた瞬間でした」
J:今大会で公式戦は終わります。ベンチの雰囲気がすごく変わったと思います。後輩の竹内みや選手ともどんな会話をされましたか
金澤杏
「こういう楽しそうなベンチの雰囲気の桜花っていうのは、初めてこの代で作れたなっていう風に思ってて。それは1、2年生と過ごしてきて、やっぱりそういう雰囲気を作りたいって、もう一人の(キャプテン)棚倉と一緒に話してたので、そういうチームが作れたのは本当に嬉しいです。
やっぱり、私だったり、コートに長く立てない3年生もいたので、改めて、怪我したのは本当に申し訳ない気持ちでいっぱいなんです。その分、やっぱり2年生が今年は主力で試合に出てる選手が多くて。『集大成のウインターカップは、やっぱり3年生の気持ちが強いところが勝つ』っていう風に言われているので、大阪薫英さんは本当に勢いに乗っていましたし、やっぱり自分がもっとチームに勢いを与えられたらな、っていう風には思うんですけど。竹内を含めて、2年生の仕事はしっかりやり遂げてくれたので、そこは感謝しかないです。
(竹内が申し訳なさそうにしていたので)逆に『謝るのは自分の方なんだから、謝らないで』っていう風に声をかけました。
来年も主力を担ってきた選手が本当にたくさんいるので、接戦とかじゃなく、本当に圧倒的な力を見せられるチームが来年は作れるっていう風に、見ていて思います。しっかりそこは卒業しても大学などで応援したいなと思います」
敗戦後、金澤杏が後輩にかけたその言葉は、キャプテンとしての責任と優しさの両方を映していた。
J:バスケットは続きますよね
金澤杏
「もちろんです! この1年、コートから離れて、コートの外から見るバスケットっていうのはすごく面白くて。コートの中でプレーしてる人には気づけない、『ここをこうした方がいいんじゃないかな』とか、そういうところは本当に誰よりも学べたし、身につけられた自信もあります。次のステージでもちろん選手としてそのチームを引っ張っていきたいと思いますし、将来的にずっと言っている日本代表でプレーして、オリンピアンになることが夢なので、しっかり次のステージでも頑張りたいと思います」


竹内みや
託された願い、
そして「日本一のガード」への覚悟
決勝戦について振り返ってもらった。
「前半は自分のドライブとかが結構効いて、得点に絡めたとは思うんですけど。やっぱり後半、相手がゾーンディフェンスに変えてきた時に、攻め方がわからなくなってしまったというか。3ポイントも、自分は1本も打ってないですし、ずっと困った状態で後半やってしまったので、そこは課題かなと思います」
J:大阪薫英は、相手に合わせてしっかり対応していた中で、自分たちのスタイルを貫きつつ精度を上げるには
竹内みや
「ゾーンをしてくる相手は、3ポイントを捨ててきているチームが多いという印象なので。それは『(自分たちのチームは)3ポイントが入らない』という印象を他のチームに持たれているということだと思うので。3ポイントの精度を上げたいですし、ゾーンをされた時のオフボールの動きやカッティングの仕方という部分も改善していきたいなと思います。
課題が出たことによって、自分にはまだまだ伸びしろがあるというか、成長できるなという風に思うので、今回の大会で出た課題を全部改善して、本当に『日本一のガード』になりたいと思います」
相手のゾーンディフェンスへの対応など、苦しんだ部分について。
「今回うまくいかなかったのは、相手がゾーンをしてきて、そこに全員が動揺してしまった感じで終わってしまったからです。
ゾーンというのは色々なチームがやり方を変えてやってくるので、今回対応できなかったのは、全員の焦りとか……あとは『負けちゃいけない』という気持ちが頭にあって、対応できなかった部分もあるんじゃないかなと思います。
試合中には、自分がやるためにどうしたらいいのか、あまりすぐ考えられなかったんですけど、冷静になって今考えてみれば、色々な方法は思いつくので。相手がしてきたことへの対応力や判断力の速さ、ガードとしてのIQをもっとつけていかないとなと思います。
前半はドライブがうまくいっていたので、後半も狙っていたんですけど、それを警戒されて2人目のヘルプも早くて。ドライブをして2人目が出てきた時に、周りの合わせ方とかもうまくいかなくて、どこにパスすればいいのか迷ってしまった状態でした」
思うようにプレーできず、竹内みやにとって苦しさと向き合う大会となった。だがその中で、状況判断や冷静さなど、自身に足りない部分が明確に。次に何をすべきかがはっきりし、成長への一歩を踏み出す大会となった。
J:金澤さんからどんなことを言われましたか
竹内みや
「自分たち2年生には本当に、『まだ来年があるから、ここで下を向くんじゃなく、今回の負けを来年につなげて絶対に優勝してほしい』と(金澤さんから)言われました」
試合後、金澤杏は涙を堪える後輩・竹内みやに対し、キャプテンとして、そして一人の先輩として、未来を託す言葉を贈った。
その言葉には、怪我でコートに立ち続けることが叶わなかった金澤自身の分まで、この舞台で輝いてほしいという願いが込められていた。金澤が築いた土台、そして恩師・井上先生から授かった「得点を取れるガードになれ」という教え。それらすべてを背負い、竹内は前を向く。
「来年は自分たちが3年生。チームメイトから信頼されるのはもちろん、流れが悪い時にこそ自分が変えられる、そんな『何でもできる選手』になりたい。今回の課題を全部改善して、本当に日本一のガードになります」
J:金澤選手から、竹内選手が申し訳ない感じになっていて『私こそ本当にごめんね』と伝えたと伺いました。
竹内みや
「バスケットの部分では、自分は練習とかでも結構ミスとかもするんですけど、井上先生からも『もっと得点を取れ』と言われ続けてきました。それでもあまり得点に絡めることが少なかったんですけど、そこで金澤さんに、どのタイミングでシュートを狙うかとか、シュートを打つ時の気持ちの部分っていうのを教わりました。自分がここまで得点に絡めるようになったのは、金澤さんのおかげかなと思います」
J:1年間、本当にあっという間でしたね。
竹内みや
「本当にあっという間で。今年1年は色々あったんですけど、その中でも全員が落ち込まずに『日本一』だけを目指してやってきたので。こういう結果になったのは本当に悔しいんですけど、今年の1年は自分としてはすごい濃い1年になったというか、本当に意味のある1年になったなと思っています」
J:またすぐ始まりますか
竹内みや
「すぐ新人戦とかも始まるので、ここで下を向いてる場合じゃないというか。本当に次がすぐ来るので、今回の試合の悔しさを次の大会に絶対つなげて、良い結果を残せるようにしたいと思います」


怪我でコートに立てなかった悔しさ。それでも、チームに残し続けたものがあると信じたい。金澤のその想いは、確実に竹内みやの中に刻まれている。
竹内はこの大会で、勝負の厳しさと同時に、自分に足りないものを明確に見つめた。ゾーンへの対応、判断の速さ、流れを変える力。課題を口にできるのは、すでに次を見据えている証拠だ。
金澤が築いた土台の上で、竹内は次の桜花学園を引っ張っていく。支える者から、受け継ぐ者へ。2人の絆は、このウインターカップで終わらない。
物語は続く。
コートの外で学んだキャプテンと、コートの中で進化を誓うガード。その交差点に、確かに未来が見えていた。
