
14勝1敗と千葉Jが堂々東地区1位となっている中で、田代直希が支えているもの
Scene|今、このチームとともに
圧倒的なタレントが揃う千葉ジェッツの中で、田代直希は“陰の主役”として存在感を放つ。彼のディフェンスは相手のエースを止める。原修太との“船橋コンビ”で築くウイングディフェンスはリーグ屈指。試合の流れを変え、勝負どころで相手のリズムを断ち切る。
2025-26シーズンここまでの田代は、15試合出場で平均プレータイム13分43秒、平均1.9得点、2.1リバウンド、0.5アシスト。3P成功率36.4%と、限られた時間の中でも高い精度を見せている。数字だけを見れば控えめだが、その影響力はスタッツの外側にある。チームディフェンスの呼吸を整えて、リズムを変える選手こそ、田代直希の真価だ。
勝負所を締めるディフェンスリーダー
田代は今シーズン、千葉ジェッツの中でも最もディフェンスインテンションを体現する選手の一人。ポジショニング、コミュニケーション、ヘルプの読み、すべてが成熟しており、相手のスコアラーを封じ続けることでチーム全体の守備リズムを作っている。
原修太との連動は今季さらに進化。互いの間合い、スクリーンの受け渡し、ヘルプのタイミングまで呼吸が合い「守備のゾーン」が生まれているかのようだ。
富樫勇樹がオフェンスを動かす司令塔であるなら、田代はディフェンス面の“もう一人の司令塔”。彼がスイッチやヘルプを声で指示する瞬間、チーム全体が一段ギアを上げる。
11月2日・アルバルク東京戦後、グリーソンHCに田代の評価を聞いた。
J: 船橋コンビと呼ばれる原修太と田代直希のディフェンスが、どのようにチームに力を与えていますか
グリーソンHC:
「原選手も本当に素晴らしい。練習から常に一生懸命で、その姿勢が試合にも表れています。
そして田代選手、今日は出場12分でプラス22という数字。スタッツに残らない部分でチームに大きなエナジーを与えてくれました。自分のやりたいことを犠牲にしてでも、チームが必要とすることを全力でやってくれる。
その積み重ねが、最終的にはチームの成功につながると思っています。」
11月8・9日、ホームで島根に連勝できたこと。リーグ屈指の強力な選手・岡田侑大をどうチームで守るか、その中で何を得たのかを聞いた。
田代:
「相手に岡田選手という強烈な選手がいるので、そこをどう守るかがすごくGAME1から課題として残っていたんです。
そこに対して前半はうまく守れた部分もあったと思うんですけど、逆に僕たちのオフェンスが前半うまく展開できなかったというのもあって、そこは少し課題として残ったかなと。
後半は逆にオフェンスがよくなったことで、必然的にディフェンスもうまく回るようになってきたんですが、本当にディフェンス・オフェンスがうまくいかない時に、どうチームとして過ごすかというところが、僕たちにとってレベルアップにつながるような試合になった気がしています。」
J: 岡田選手に対しても、コースの正面に入るなど、さまざまなディフェンスで対応していました。ディフェンスにどんな信条を持って臨んでいますか。
田代:
「ひとつは、ピック&ロールがあった場合には、役割が半分半分になるんですね。
ピック&ロールからレイアップに行かれる分にはビッグマンの責任が半分くらい入ってきて、そうじゃない時は僕が100パーセントの責任を負うことになる。なので今は“どれくらいの距離感で守るか”というのをすごく見ています。
今は自分が100パーセント責任を負わなきゃいけないシチュエーション、今はビッグマンやチーム全体で連携して守らなきゃいけないシチュエーション。
そこを自分の中でしっかり分けていて、その上で“自分の責任”という部分を強く感じています。ヘッドコーチにもその点を評価されていると思うので、その責任を果たすために“とにかく前に入る”ことを常に意識していますね。」
J:グリーソンHCからも、“やりたいことすら犠牲にしてチームに貢献してくれている必要な選手だ”と聞きました。今日のようにプレータイムが増えれば、オフェンスでももっと貢献できると思いますが
田代:
「それはもちろんあると思います。
普段は激しくディフェンスをやって、コーナーで待って味方を生かすという役割をやっているんですが、短い時間の中ではボールに触れる回数も限られてしまう。でも、長い時間出ていると自然とボールが回ってくる回数も増えるので、そういう意味ではオフェンスはやりやすくなりますね。
今日は長い時間プレーするというのを自分の中で分かっていたので、その準備はしていました。このラインナップを見た時に、自分のポジションが少し手薄になるのは分かっていたので、そこで僕がアタックを仕掛けたら相手は嫌だろうなと思って、積極的にアタックすることを意識していました。」


今シーズンの新たな取り組み
田代:
「今年、新しく“リーダーシップチーム”というのをトレバーHCが作ったんです。
富樫選手、原選手、渡邊選手、ムーニー選手の4人がメンバーで、チームを代表してリーダーシップを発揮するというものです。
そのリーダーシップチームとコーチ陣のやり取りが多く行われていて、僕たちの“こうしたい”という意見を吸い上げ、それをコーチ陣と対等に話し合う形で、何がチームにとって最適かを一緒に考えながら、方向性を少しずつ調整していきました。
開幕から好調で14勝1敗とはいえ、接戦も多く、決して楽な戦いではありません。今日の試合もかなり苦しい展開でしたが、そうした中でも“粘り強く勝ち切る力”が試合を重ねるたびに出てきていると感じます。結局は試合の中で発見して、粘り強く勝ち続けることが、今の結果につながっていると思います。」

課題:攻守両面のバランスとフィジカルマネジメント
ディフェンスでのエネルギー消耗が大きい分、オフェンス面では波が出ることもある。特にドライブ後のフィニッシュやショットには少し課題が残り、安定感を高めることでプレータイムの拡大も見えてくる。ただし、田代の役割は単なるスコアラーではなく、相手の主軸を止め、チームに流れを引き寄せる仕事人。その中で、ケガを防ぎながらコンディションを維持し続けることが大きなテーマとなる。
過去に何度も苦しいシーズンを乗り越えてきた田代だからこそ、今季は“戦うための準備”を最優先に考えている。試合ごとに相手のウイングスコアラーへ対応しながら、自身の強度を落とさずにシーズンを戦い抜くタフネスこそ、彼が今もコートに立ち続ける理由だ。
千葉Jディフェンスを支えるリーダー
千葉県船橋市出身で専修大から琉球ゴールデンキングスでプロキャリアをスタートし、その琉球では日本を代表する守備チームの礎を築いた。常に「チームを勝たせるディフェンダー」として存在してきた彼は、チームから高い信頼を得てきた。
そして現在、千葉ジェッツでその体現してきたものをチームで共有させている。渡邊、富樫、原、ムーニー、金近といったスターが集う中で、田代は静かにチームの基準を引き上げている。
“数字では測れない貢献”を積み重ね、若手には声で、チームには姿勢で示す。それが千葉Jの新しい文化を支える見えない力になっている。経験と読み、そして勝負どころの冷静さは、今後の千葉Jに欠かせない存在であることは間違いない。
Jbasket視点
田代直希は「数字では測れない価値」を持つ選手。原修太との連動、渡邊、富樫を支えるリーダーシップ、相手エースを封じる勝負強さ。
彼がチームに与えているのは、単なる守備力ではなく、“勝ち切るためのメンタリティ”そのものだ。今季の千葉が東地区をリードする理由の一つは、間違いなく田代直希のディフェンスから始まっている。


